希望が閉ざされたら、本を開こう。

生き方を問い直す読書感想文

『夜型人間のための知的生産術』(齋藤孝著、ポプラ新書、2017年)

「朝型生活」の素晴らしさが喧伝される中で、我々「夜型人間」はずいぶん肩身の狭い思いをしてきた。

思い切って朝型に切り替えようとして、挫折し続けている人も多いはずだ。

考えてみれば、「早起きをしようとしてできない」日々の繰り返しは、毎朝が「敗北と自己嫌悪からのスタート」になるわけで、精神衛生上、非常によくないわけである。

そんな話をある人にしたところ、「体質的に朝型が向かない人って本当にいるみたいですよ」と勧められたのが本書。まさに夜型人間垂涎の書と言えよう。

著者の齋藤孝さんが、本の表紙で「私も夜型です」と言っているが、いかにも朝型なイメージだったので、最初はちょっと信じ難かった。しかしページをめくってみると、彼はこう述べている。

「私がふだん眠りに就くのは、だいたい午前3時から3時半くらいです。平均6時間ほどの睡眠をとり、午前9時から9時30分ごろに目が覚める」(22頁)

意外なこともあるものだ。

齋藤さん曰く、「『規則正しい生活』が向かない人たちもいる」(23頁)。

実に心強い言葉ではないか。

さらに「デカルトの死因が『無理な早起き』にあった」(45頁)というエピソードも語られていて、「やっぱり早起きなんかしちゃダメだ!」とさえ思わせてくれる(笑)。

しかしタイトルでもある「夜型人間のための知的生産術」についてだが、正直なところ「それ、夜型とか関係ないんちゃうの?」というのが多い。

途中からオススメの本、映画、テレビドラマなどの紹介が延々続く箇所もあり、「ページ稼ぎ感」があったことは否めない。

齋藤さんは著書を量産していることで知られるが、一冊の内容をあまり濃密にしすぎないことが、その実現のコツなのだろう。

読者はむしろ彼のそういう部分をこそ、仕事のコツとして学ぶべきなのかもしれない。

……いや、たぶん僕の吸収力がなかっただけなのだろう。

「夜は素敵な時間です」(4頁)

「一人きりのナイスな時間」(85頁)

などという一見浅薄な表現も、夜の油断しがちな雰囲気を表現しているようで面白いし、「一気に書き上げてる感」が出ていて、多産な著者の仕事ぶりを垣間見ることができる。

「夜型」に特化した内容を期待している方々にはちょっと不満が残る内容かもしれないが、それとは関係なく、日常に役立ちそうな技術や考え方がたくさん紹介されているので、自分で使えそうな部分は実践しない手はない。

「1万個の作品がある人は、1万1個目を生み出すのはすぐにできますが、3個しか作品がない人がもう1個つくるとなると、かなり難しい」(147頁)

という指摘も実に腑に落ちる。

「量をこなさずに一流になる」なんてことはありえないわけで、その時間をしっかり取ることが大事になる。そしてそれは朝でも夜でもかまわないのだ。

「知性とは何でしょうか。それは、決めつけや思い込みに縛られず、視点を自由に移動することができることです」(159頁)

という言葉にも共感した。

僕の友人に、「学びの先にあるのは、やさしさだ」という名言を吐いた奴がいるが、それはつまり「自分の考え」に縛られることなく、「相手の視点」に自由に移動できるということでもある。

これがまさに知性であり、教養というものだろう。

朝型生活がもてはやされる中で、自己嫌悪に陥りがちな全国の夜型諸氏のためにも、これと同じテーマの本がもっとたくさん出てくるといい。