『希望のしくみ』(アルボムッレ・スマナサーラ・養老孟司著、宝島社、2004年)
『希望のしくみ』というタイトルの秀逸さに、読み終わってから改めて感心した。
宗教というと、なんだかあいまいなもののように感じてしまう。だが、スリランカ仏教界長老のスマナサーラさんは、仏教の教えはすべて論理的に説明することができると断言している。
ちなみにスマナサーラさんの説く仏教は、2500年前から続く最初の仏教「テーラワーダ仏教」である。
そして、養老さんは科学的アプローチで、スマナサーラさんが語るのと同じ真理に到達している。
二人の対話の中で、世の中の真理、幸せとは何かという、普遍的なテーマに対して極めて論理的な見解が語られる。
「希望」というものを、ただの精神論で片付けるのではなく、「しくみ」としてやさしく理解させてくれる良書だと思う。
そしてこの本のいいところは、哲学的テーマを扱っているにも関わらず、決して重くならないこと。
二人とも、いい意味でくだけているというか、あっけらかんとしている。
このへんの雰囲気が、キリスト教と仏教の大きな違いのような気がする。
たとえば、僕にとって印象的だったこんな言葉。
「入学試験の価値観なんかにも通じるんだけど、『できた方がえらい』っていうのは大間違い(笑)。そんなの、人間の価値とは関係ないんですよ。できようが、できまいが、たんなる状態の違いでしかないんだから」(養老孟司)
「だから、もっと人生ふざければ幸せになりますよ(笑)。そんな深刻なことじゃないですよ。世界は単純ですからね」(スマナサーラ)
特に、スマナサーラさんの次の言葉は、いろいろ悩みを抱えている人に紹介すると、すこぶる評判がいい。
「まず自分が楽しくなりなさい。それから皆にも楽しみを与えることだ。それ以外には何もないよ」(スマナサーラ)
このシンプルさが、人の心を軽くしてくれるのかもしれない。
真面目な人ほど、他者に貢献することは、自分を犠牲にすることだと思っていたりする。
でも本来の仏教における「利他行」とは、「自分のやりたいことをやることで、それが他者のためにもなる」ことであり、決して自分が犠牲になることではないという。
もちろんひと口に「仏教」と言っても、その考え方は実にさまざまなので一概には言えないけれど、少なくとも苦しんでいる人に寄り添う思想でなければ、それは仏教ではあり得ない。
その意味で、やはりこの本は優れた仏教書だと言えるのではないだろうか。
既存の価値観を大胆にひっくり返してくれる二人の対話。
善い悪い、正しい正しくないは別にして、考え方の幅を広げるためにも、ぜひ一読をオススメしたい本である。