『コーオウンド・ビジネス 従業員が所有する会社』(細川あつし著、築地書館、2015年)
経営の知識がない僕にもスッと読めてしまって、しかもワクワクする素晴らしい内容。
コーオウンド・ビジネスのメリットが説得力を持って書かれていて、しかもその事例がまた魅力的なので、思わず引き込まれてしまう。
コーオウンド・ビジネスとは、「社員が自分の会社の大株主になることによって、オーナーになってしまう」というビジネスモデルである。
だがその本質は、そこで醸成される「オーナーシップ・カルチャー」という、言語化困難な気運、気風、文化である。それは一種のコミュニティ意識でもある。
その新しいカルチャーが、社員の生き方そのものをも変えてゆく。
「社員たちはコーオウンド・ビジネス・モデルに身を浸して、『仕事とは何なのか』『自分は仕事を通じて何をしたいのか』『しあわせとは何なのか』という根源的な質問に直面する」(192頁)
ボブ・ムーアが創業した「ボブズ・レッド・ミル」なんかは、まさにコミュニティそのもの。
「実際に働く人たちから隔離された所有が問題だ」
というボブの言葉は、コミュニティの問題を考えるうえでも実に本質的だ。
「共有から私有へ」という近代の流れがコミュニティの解体を促したとすれば、コーオウンド・ビジネスは、それを逆流されるひとつの潮流だとも言える。
ふつうの会社では、みんな一緒に働いていたとしても、結局「個人の時間」を生きているにすぎない、という場合がほとんどではないだろうか。
自分の出世のために、同じ会社で働く同僚を蹴落とすようなことも起こる。
だが、会社そのものを共有するコーオウンド・ビジネスにおいては、そのようなことをする動機が生まれない。
本当の意味で「時間を共有できる」ビジネスモデルなのかもしれない。
本書では、コーオウンド・ビジネスの導入を疑似体験できる章が設けられていて、それがまたわかりやすい。読者の理解を助けるために、実にいろんな工夫がなされている。
僕が特にお気に入りなのは、「クリフ・バー」を創業したエリクソンの「赤い道」「白い道」のエピソード。いま人生の岐路に立っている、というような人にはぜひ読んでほしい。
競争の中に身を投じ、ひたすら「目的地」を目指す「赤い道」。
道に迷いながらも、自ら決断しながら「道」そのものを楽しむ「白い道」。
そしてそのどちらを選ぶべきかを教えてくれるのが「ガット・フィーリング」である。
僕なりの言葉で表現すれば、「直感」とか「魂の声」ということになるだろうか。
ありきたりな言葉で恐縮だが、本当に素晴らしい一冊だなあと感じた。
仕事について考えるすべての人に、自信を持ってオススメしたい。