希望が閉ざされたら、本を開こう。

生き方を問い直す読書感想文

『これでいいのか 東京都北区』(鈴木士郎・昼間たかし編、マイクロマガジン社、2015年)

「日本の特別地域 特別編集」シリーズの一冊。

思っていた以上にしっかり調査されていて、いわゆる「街歩きガイドブック」などとは一線を画す本格的な内容である。

今回は東京都北区編ということで、「赤羽」「十条」「王子」「滝野川地区」「田端」の地域ごとに、その「真実の姿」が検証されている。

北区と言えば「赤羽」が特に注目されているが、この本ではそれ以上に「十条」の評価が高い気がする。

「ホントの北区を知りたいならば、十条においでよ。……ここに住む住民たちの営みこそが本当の北区の原風景を見せてくれると断言できるのだ」(14〜15頁)

「赤羽=北区の中心だなんて寝言は寝てからいうべきだ。ホントにディープな北区の中心は十条にあり。学生から老人までさまざまな世代の人々が安さに溢れる商店街に集う。古いけれども最新でもある不思議な町・十条」(75頁)

と述べられているように、十条が北区を象徴する存在として描かれている。

特に「古いけれども最新でもある町」というのは本当にそのとおりだと思う。本のタイトルは「これでいいのか」となっているが、十条に関しては「このままでいい!」ようだ(笑)。

「変化を求めることを拒否し、永遠の昭和を探求し続けているのが十条エリアの最大の特徴だといえる」(14頁)

「十条は、家賃や物価だけではなく、住民も空気も『やさしい』のである」(77頁)

特に十条銀座商店街の記述は目を見張るものがある。

「東京では十条に似た雰囲気のマイナーだけれど地元民の利用が絶えない商店街というのは、ほかの地域にも点在している。……けれども、十条が特徴的なのは地元民で賑わう商店街のはずなのに、妙な活気のあるところだ」(79頁)

「都内最強の商店街十条銀座」(80頁)

「これまで都内各地の商店街をリスペクトしている本シリーズだが、十条では驚きを隠せなかった。アベノミクスの不発による景気後退など、どこ吹く風の活気に満ち満ちているのだ」(80頁)

また本書では、「十条に押し寄せる再開発の嵐」(84頁)についてもふれていて、「この再開発計画が相当尋常ではない」ことを指摘している。

「駅前に高層マンションを建設する計画にしても、マンションバブルの真っ最中である2015年現在だから具体性を感じるものの、2020年以降も、マンション需要は続くかといえば大いに疑問だ」(85頁)

「この再開発計画。ともすれば廃墟しか残らない投機性を感じる」(85頁)

さまざまな地域の商店街の衰退・発展を調査し検証してきた彼らが言うのだから、耳を傾ける価値は十分あるだろう。

一度壊してしまったものは、二度と元には戻らないのである。

とはいえ、本書はすべての再開発に反対しているわけではなく、「正しい再開発」を提案している。

赤羽西地区の桐ヶ丘、赤羽台団地については、赤羽駅西口方面がすでに「今風」の街であるため、むしろ「バリバリの『再開発』をやってしまうべき」だと主張している。

一方で「しかし、赤羽東部や十条は違う」という。

赤羽駅東口や十条の商店街は、さんざん強調してきたように、すでに都内、いや国内でも『貴重』な『文化遺産』となっている。夕方になると自転車に乗った主婦が買い物をし、学校帰りの子どもたちが鶏肉屋の揚げ物に行列を作る。そんな『幸せな』景色が残っている街は、はたしていくつ現存しているのだろうか」

「北区は『今のごちゃごちゃした旧態依然な街並みをどう保存していくか』に軸足を置くべきだ」

そして最後に次のように締めている。

「北区は、イメージの薄い特徴のない街だといわれてきた。しかし、実際の北区は、この苦しいデフレ時代に、金はなくても特徴的で、さらに『安く』『幸福度の高い』生活をする、非常に賢い『デフレファミリー』が暮らす街だ。あえていうなら『まったり』こそが、北区の『イメージ』といえるだろう。これからの北区は、現在のまったりイメージを大切にし、それに軸足を置いた『正しい再開発』を考えるべきだ。単純な金儲け優先の開発では、北区民の心をつかむことはできない」(130頁)

日本の特別地域 特別編集70 これでいいのか 東京都北区

日本の特別地域 特別編集70 これでいいのか 東京都北区